
博士課程(理学)で培う知識や技能, 経験が中学や高校の教員としての素養に如何に寄与し得るのか整理したい.
博士課程に特有な経験として, 充分な研究経験と理学的思考法の会得を挙げる.
これらを中等教育で一般に必要とされる教科や教職の専門性と比較する.
一方, 博士号取得者が中学や高校で有意義に働くためには, 新たに身につけるべき知識や技能が多くあると主張したい.
最後に, 博士号教員に期待され得る中等教育における役割を述べたい.
※本稿(このブログ)は, 2017年10月時点での執筆内容である.
※結局どこにも投稿しなかったものをブログで発信しました.
目次
構成(理学研究者から中高教員へのキャリアパス)
本稿の構成は次の通りである.
博士号を取って、中高教員になるということ
博士課程での経験と中高・学士・修士での経験の違い
第II章では, 博士課程や修士課程, 学士課程でのそれぞれの活動や経験の違いに言及する.
大学での講義や研究集会での講演と中高の授業の違い
第III章では, 大学(院)での講義や専門学会における研究集会における講演や研究発表と, 中学や高校での授業に大きな違いが見られることを述べる. 特に, 中学や高校での授業を大学(院))の講義 や講演と同質なものとして考えるべきではないことに注意する.
一人前の中高教員になるために必要なこと
第IV章では, 中等教育における教職の専門性を中心に, 博士課程での経験とは直接関連を持たない要素を列挙する. この指摘から, 一人前の中高教員に必要であると考えられる要素を整理する.
博士号教員の中等教育での強み
第V章では, 博士号教員の強みとなる特性を列挙する. 特に, 理学博士だからこそ中学生や高校生(生徒))に果たして欲しい使命を述べる.
理学的思考法の中等教育への弊害
第VI章では, 博士号取得者が, 理学的思考の考え方に秀でていることから生じると考えられる中等教育現場とのギャップを2点述べる.
博士課程から中等教育へのキャリアパス
第VII章では, 博士 課程から中等教育へのキャリアパスを支援し, 博士号取得者を中学校や高校で有意義に活躍させるために必要であることを議論する. その事例として大阪教育大学の高度理系教員養成プログラムでの取り組みを紹介する.
これからの博士号教員の役割
第VIII章では, 中高教員として一人前となった博士号教員に対して, 期待することを述べる. 博士課程で得る知識や技能が必要と考えられる仕事を述べる. その一事例として秋田県での博士号教員の特別採用及び博士号教員の活躍を紹介する.
(結論)博士号を取って、中高教員になるということ
本稿(このブログ)の結論
博士号取得者の中には次の台詞で表現される誤解を持つ者が少なからず存在すると感じる:
「最高の学位機関である博士課程を修了したのだから, 中等教育には充分寄与できる」
博士号取得者が中高教員として就職することは, 企業での就業経験を持った者が中高教員になることに等しいと考える.
すなわち, 博士号取得者は, ある(限られた)専門的な知識・技能・経験を所有しているのみだと考える.
しかし, その専門性は企業での経験とは異なり教科への専門性へ真っ直ぐに還元されるものである.
博士号取得者が持つ知識や技能は, 中等教育に大きな利点を与え得ると考える.
しかし, 初任の博士号教員には新たに身につけなければならない資質が多くある.
この資質を身につけることを怠り, もし大学院での活動の延長(もしくは, その下部構造)として中等教育を捉えていると, 多くの弊害が起こるだろう.
理学の研究の世界と中等教育の世界は異なる面が多いことを認識する必要がある.
実情として, 博士号教員に不足している知識や技能によるデメリットが目立ち, 博士号教員の持つ高い能力が生かし切れていない状況は存在すると思われる.
したがって, 博士課程を修了した者が中高教員として働く際に, 新たに身につけるべきことや博士課程での経験から生かせる強みを, 博士課程と中等教育の現場で広く情報共有することが重要である.
教職の専門性は実際の経験を謙虚に積むことで初めて実る.
博士課程での研究経験もしくは学問への理解は, 一つの(強力な)強みであるが, 中等教育での貢献としては(大きな)一部でしかない.
中等教育の教育活動と博士課程での研究活動は, ただ, 知を共有・教授することにのみ共通点があり, この点を除いて両者は全く異なる仕事だと認識する必要があると考える.
したがって, 両者の特性をお互いがよく理解し, 情報共有をし, 博士号取得者が中高教員として活躍ができるような仕組みが必要となるだろう.
その上で将来的には中等教育の現場に博士課程での経験を生かすことができる教員が増えることを期待する.
謝辞
著者は, 本稿内で紹介する大阪教育大学の高度理系教員養成プログラム修了生であり, 本稿内で議論している話題の多くは, このプログラムでの活動から得た.
この場を借りて, 高度理系教員養成プログラムの活動において御世話頂いた方々に謝意を表する.
参考文献
参考文献リスト:
- 内田祐貴, 「秋田県博士号教員としての教育研究活動の総括的報告(原著講演(B8c), 大会テーマ「物理教育で大学と小・中・高校教育をどうつなぐか」)」, 物理教育学会年会物理教育研究大会予稿集(32), 91-92, 2015.8.8
- 小泉治彦, 理科課題研究ガイドブック第3版〜どうやって進めるか, どうやってまとめるか〜, 千葉大 先進科学センター, 2015.2.28, http://www.cfs.chiba-u.jp/koudai/pdf/Library/guide_dai3ban.pdf
- 酒井聡樹, これから研究を始める高校生と指導教員のために 研究の進め方・論文の書き方・口頭とポス ター発表の仕方〜 初版2刷, 2015.4
- 野曽原友行, 高校教師のための課題研究指導サポートブック:学校の体制作り・テーマ探し・研究指導の実際, 千葉大学 先進科学センター, 2012.3
- 博士教員教育研究会, 2017.6.28 アクセス, https://akitaphd.wordpress.com
- 三浦有紀子・仙石慎太郎, 博士号を取る時に考えること取った後できること—生命科学を学んだ人の人生設計, 羊土社, 2009.10
- 三須敏幸, 袰岩晶, 茶山秀一, —博士人材の将来像を考える— 理学系博士課程修了者のキャリアパス, 科学技術政策研究所 第1調査研究グループ, 2010.5, http://hdl.handle.net/11035/923
- 文部科学省 中央教育審議会 大学分科会大学院部会(第44 回)配布資料2-3, 博士号教員の活用について(秋田県教育委員会), 2009.5.18, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/attach/1288749.htm
- 文部科学省 基礎科学力強化推進本部, 基礎科学力強化総合戦略, 2009.8.4, http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/1283596.html
- 文部科学省 科学技術・学術審議会 第8期人材委員会, 博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて 〜"共創"と"共育"による「知のプロフェッショナル」のキャリアパス拡大〜(これまでの検討の整理), 2017.1.16, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/toushin/_icsFiles/afieldfile/2017/02/14/1382233 1_1_1.pdf